社員の一部がChatGPTなどの生成AIを使い始めたものの、会社としての方針がまだ無い。そんな中小企業の経営者・役職者の方に向けた記事です。「使わせるか、止めるか」を決める前に、会社として何を、どの順番で決めればよいかを、4つの手順にまとめました。
要約: 中小企業が社内で生成AIを使い始めるときは、(1)何のために使うかの方針を一文で決める、(2)入力してよい情報や出力の確認者など最低限のルールを決める、(3)身近な業務で小さく試す、(4)使える人を育てる、の順に進めると、社員が個別に使っているだけの状態から、会社として判断できる状態に移りやすくなります。この記事は、株式会社Qukuri(ククリ)が2026年9月に仙台で開いた経営者・役職者向けセミナーで講義した内容を元に、その手順と、誤情報・情報漏えい・著作権のリスクの考え方を整理したものです。
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出発点:社員の一部が使い始めているが、会社の方針がない
使わせるか止めるかを決める前に、社内で「何の業務で、どんな情報を入れて、どのプランで」生成AIが使われているかを知ることが、最初の判断材料になります。
当社のAI駆動開発講座のページでも、次のような困りごとを挙げています。
- 一部の社員がAIを使い始めているが、会社としての方針が決まっていない
- 使わせるべきか止めるべきか、判断する材料がない
- 記事や動画を渡して試させても、環境の準備で止まって続かない
一律に止めても許しても、どの業務で役立ち、どこに危険があるかという判断材料は残りません。何も決めずに任せると、顧客情報が無料版のサービスに入力されるといったことが起きえます。まずは現状を短い聞き取りで把握し、そのうえで次の4つの手順に進むのがおすすめです。
進め方の全体像:4つの手順
社内で生成AIを使い始める手順は、「方針 → ルール → 小さく試す → 人を育てる」の4つです。上から順に、小さく決めて、試して、見直します。
| 手順 | 決めること | ひとことで |
|---|---|---|
| 1. 方針 | 何のために使うか | 困りごとを数字つきの目標にする |
| 2. ルール | 入力してよい情報、使うプラン、人が確認する範囲 | 最低限の3点から始める |
| 3. 小さく試す | どの業務で、どの契約で試すか | 身近な業務から、月単位で解約できる契約で |
| 4. 人を育てる | 誰が使えるようになり、誰が任せる範囲を決めるか | 特定の人しか使えない状態を避ける |
一度で完璧なルールを作ろうとすると、決めるまでに時間がかかり、その間も社員は個別に使い続けます。小さく決めて試し、分かったことで見直す、という順番のほうが進めやすくなります。
手順1 方針:何のために使うかを一文で決める
方針は、「生成AIを活用する」ではなく、「◯◯の処理時間を半分にする」のように、困りごとを数字つきの目標にして一文で決めます。目標が数字になっていると、AIを使う業務と使わない業務を分けやすくなり、試したあとに効果があったかも判断できます。
仙台のセミナーでは、最初に参加者の方に、業務で「あったらいいな」と思うものをワークシートに書き出していただき、それを「処理時間を半分に」「月◯枚まで」のような数字の目標に置き換えました。あわせて、アプリをつくる前に決めておく項目として、次の4つも整理しました。
- 誰が使うのか
- 社外に公開するのか
- どの端末で使うのか
- 誰がメンテナンスするのか
この4つは、社内でAIを使い始めるときの方針にもそのまま使えます。「誰が使い、社外に出すものか、どの端末で、誰が面倒を見るか」が決まっていないと、次の手順2のルールも決めにくくなるためです。
手順2 ルール:入力してよい情報と、人が確認する範囲を決める
最初の社内ルールは、「入力してよい情報・いけない情報」「業務で使うプランの条件」「出力の最終確認は人が行う」の3点から始めます。細かい規程を最初から作り込むより、この3点を全員が守れる形で決め、使い方が広がるのに合わせて見直していくほうが現実的です。
- 入力してよい情報・いけない情報: 顧客の個人情報、取引先から預かった資料、社外秘の数字などをどう扱うかを決めます。
- 業務で使うプランの条件: 無料版では、入力した内容がAIの学習に使われる場合があります。業務で使うなら、入力内容が学習に使われない法人向けプランを検討します。条件はサービスごとに異なり変わることもあるため、各サービスの最新の規約を確認してください。
- 出力の最終確認は人が行う: AIの出力をそのまま社外に出さず、誰が確認するかを決めます。
仙台の講義では、AIの特性を「物知りで、自信満々に間違える新人」とたとえました。知識は豊富でも、指示があいまいだと誤りを出すことがあります。そのため、具体的に指示する、話題ごとに会話を分ける、出典を確認する、最終確認は人が行う、という使い方を勧めています。ルールの3点目は、この特性を踏まえたものです。
手順2の補足:3つのリスクと、会社として決めておくこと
生成AIの業務利用で押さえておきたいリスクは、主に「誤情報」「情報漏えい」「著作権」の3つです。どれも、使うプランの選び方と社内ルールで起きにくくできますが、完全に防げるものではありません。以下は一般的な考え方で、個別の法的な判断は弁護士などの専門家にご確認ください。
| リスク | 何が起きうるか | 会社として決めておくこと |
|---|---|---|
| 誤情報(ハルシネーション:AIがもっともらしい誤りを出すこと) | 事実と違う内容や、存在しない出典がそのまま資料やメールに入る | 出典の確認と、社外に出す前に人が確認する手順。確認する人を決める |
| 情報漏えい | 無料版などで、入力した内容がAIの学習に使われる場合がある | 入力してはいけない情報の範囲と、業務で使うプランの条件 |
| 著作権 | 生成した文章や画像が、既存の作品に似てしまうおそれがある | 社外に公開するものの確認の手順と、判断に迷うときの相談先 |
もう1つ、AIエージェントにWebページを読ませる使い方では、「プロンプトインジェクション」(Webページなどに仕込まれた指示で、AIが意図しない動きをすること)にも注意が要ります。
仙台の講義では、これらのリスクについて「法人向けプランの利用と社内ルールの整備で、多くは防げます」と整理しました。「多く」であって「すべて」ではないため、最後に人が確認する、という手順を外さないことが大切です。
手順3 小さく試す:身近な業務から、月単位で解約できる契約で
試すときは、出退勤の記録や席替えのような身近で、間違えても影響が小さい業務から始め、うまくいったら部門・チームへ広げます。契約も、最初は月単位で解約できるプランにしておくと、合わなかったときにやめやすくなります。
仙台の講義では、次の3つを典型的な失敗パターンとして紹介しました。
- 基幹システムへいきなり手を入れる
- 全社一斉に導入する
- 特定の人しか使えない状態にする
契約については、「まずは月単位で解約できるプランで試す」ことをおすすめしています。API(ほかのシステムからAIを呼び出す仕組み)を使う従量課金の契約は、使った分だけ費用がかかるため、利用上限の設定と、使用量の監視が必要です。料金はサービスごとに異なり変わることもあるため、最新の料金は提供元の公式サイトでご確認ください。
手順3の例:仙台のライブデモで作ったもの
仙台のセミナーでは、講義と並行してAIエージェント「Claude Code」が参加者のワークシートのアイデアからアプリの開発を進め、講義の終わりには動くアプリになっていました。当社の研修やセミナーは、資料の説明で終わらせず、その場でAIに実際に作らせて見せることを軸にしています。
作ったものは次の2つです。
- 旅館の事務スタッフ向けのメール自動返信システム: 問い合わせメールを貼り付けると、内容を読み取って返信文の案を作ります。スタッフは確認して手直しします。
- 自社ブログの管理アプリ: 記事ごとの数値をグラフにし、人気記事をランキングで表示します。
ほかにも、見積書のExcel作成とPDF化・メール送信、SNS投稿文の作成、宿泊税など制度が変わったときの設定の反映、Googleカレンダーとの連携、会計システムへの入力の自動化、社内の席替えツールといったテーマが挙がりました。
メール返信の例のように、AIが案を作り、人が確認して送る、という分担にすると、小さく試しやすくなります。会場の質疑でも会計業務への適用について質問があり、「会計ソフトへの入力のような定型作業は自動化できます。一方で、税務上の判断は税理士など専門家の領域です。」とお答えしました。AIに任せる作業と人が判断する作業を分けて考えることが、試す業務を選ぶときの目安になります。
当日の流れや会場の様子は、仙台の開催レポートにまとめています。
手順4 人を育てる:使える人を増やし、任せる範囲を決められる人をつくる
小さく試してうまくいったら、次は「使える人」を増やし、「どこまでAIに任せ、どこを人が判断するか」を決められる人を社内につくります。ここが手薄だと、特定の人しか使えない状態になり、手順3で挙げた失敗パターンに戻ってしまいます。
社員に記事や動画で試してもらっても、ツールの準備(環境準備)の段階で止まって続かない、という困りごとは、当社の講座ページでも課題として挙げています。育て方は、大きく分けて2つあります。
- 社内に教えられる人がいる場合: その人を中心に、手順2のルールと手順3で試した業務の進め方を共有する内製の形でも進められます。
- 社内に教えられる人がいない、使い方が人によってばらつく場合: 講師が付く研修も選択肢になります。
研修を比べるときの軸は、AI研修の選び方にまとめています。業務担当者が自分で小さな業務ツールを作るところまで進めたい場合は、非エンジニアが業務ツールを作る流れもあわせてご覧ください。
当社のAI駆動開発講座(研修)のコースや進め方は/ai-trainingに載せています。人材開発支援助成金の対象となる場合があります。申請は御社が行います(助成金を使うときの流れ)。
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そのまま使えるチェックリスト
社内の打ち合わせでは、次の表の「決める人」と「期限」を埋めるところから始めると、話が進みやすくなります。
| 手順 | 決めること | 決める人 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 0. 現状把握 | 今、誰が、何の業務で、どのプランで使っているか | ||
| 1. 方針 | 何のために使うか(数字つきの目標を一文で) | ||
| 1. 方針 | 誰が使うか/社外に公開するか/どの端末で使うか/誰がメンテナンスするか | ||
| 2. ルール | 入力してよい情報・いけない情報 | ||
| 2. ルール | 業務で使うプランの条件(入力内容の扱いを規約で確認) | ||
| 2. ルール | 出力を社外に出す前に確認する人 | ||
| 2. リスク | 誤情報・情報漏えい・著作権で迷ったときの相談先 | ||
| 3. 小さく試す | 最初に試す業務(身近で、間違えても影響が小さいもの) | ||
| 3. 小さく試す | 契約の形(月単位で解約できるか、従量課金なら利用上限) | ||
| 3. 小さく試す | AIに任せる作業と、人が判断する作業の線引き | ||
| 4. 人を育てる | 最初に使えるようになる人と、その次に広げる部門 | ||
| 4. 人を育てる | 内製で教えるか、研修を使うか | ||
| 見直し | ルールと方針を見直す時期 |
よくある質問
社員が勝手にChatGPTなどを使っています。止めるべきですか?
一律に止めるか許すかを決める前に、何の業務で、どんな情報を、どのプランで使っているかを把握するのがおすすめです。そのうえで、入力してよい情報や出力の確認者など、最低限のルールを決めます。一律に止めても許しても、判断材料は残らないためです。
生成AIの社内ルールには何を書けばいいですか?
まずは、入力してよい情報・いけない情報、業務で使うプランの条件、出力の最終確認は人が行うこと、の3点から始めます。細かい内容は、AIを使う業務の範囲が広がるのに合わせて見直します。
中小企業は、どの業務から始めればいいですか?
出退勤の記録や席替えのような、身近で、間違えても影響が小さく、元に戻せる業務からがおすすめです。基幹システムへいきなり手を入れることや、全社一斉の導入は、典型的な失敗パターンとして避けます。
無料版の生成AIを仕事で使っても大丈夫ですか?
無料版では、入力した内容がAIの学習に使われる場合があります。業務で使うなら、入力内容が学習に使われない法人向けプランを検討し、各サービスの最新の規約を確認してください。
社内でAIを使いこなす人を育てるには、研修が必要ですか?
社内に教えられる人がいれば、内製でも進められます。環境準備で止まってしまう、使い方が人によって違う、という場合は講師付きの研修も選択肢です。選び方はAI研修の選び方をご覧ください。当社の講座は人材開発支援助成金の対象となる場合があります。申請は御社が行います。
相談先:方針がまだ無い段階でも相談できます
ここまでの手順は、記事だけでも社内で進められるように書きました。そのうえで、「人を育てる段階をどう進めるか」「自社の業務ではどこから試すのがよいか」を一緒に整理したい場合は、無料相談をご利用ください。30分・オンライン(Zoom)で、育てたい人と困りごと、どちらのコースが合うか、PC環境、助成金の利用のお考えなどを伺います。
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